片品川中ノ岐沢小淵沢


(天候)9月4日:晴のち曇、一時雨

アプローチ

昨年10月下旬に遡行した際は直前に降雪があり、新雪の積もる中を遡行し、雪の原になった小淵沢田代へと詰め上げた。今回は、会への問い合わせをいただいた方1名の体験山行として計画したが、下山路として昨年歩きそびれた送電線巡視路を組み入れてみた。

前夜に都内を出発し、道の駅尾瀬かたしなで仮眠。翌朝6時30分に道の駅を出て、大清水の駐車場まで移動。身支度を整え、奥鬼怒スーパー林道を進む。今シーズンは3度目の大清水だが、思えば、コロナ禍以降は尾瀬沼にも尾瀬ヶ原にも足を踏み入れてない。別に避けているわけでもないのだが…。
小淵沢を渡る橋の手前からは小淵沢沿いの林道に入る。少し傾斜が出て登り基調になるが、大清水の駐車場から1時間15分ほどで入渓点の橋に到着した。順調である。

体験の方は、6年間くらいの一般登山と10回くらいの沢登りの経験はあるが、クライミングやロープワークは正式に習ったことはないということなので、入渓前に15分ほど今回必要となるロープワークを実習していただいた後、橋の左岸側から小淵沢へ降り立つ。

小淵沢入渓

小淵沢は要所に登れる滝が懸かり、またナメも発達して遡行者の目も楽しませてくれる初心者向けの秀渓である。詰め上げると静かな小淵沢田代にも出られるし、尾瀬沼を回って下山することもできるとあって、近年は人気も出てきているようだが、今日はほかの遡行者は見かけなかった。

小淵沢入渓直後のナメ
入渓直後からナメが続きいい雰囲気だ

前日までそこそこ雨も降っており、入渓点から見ると水量は少し多めにも感じる。ただし、増水というほどの水量でもない。何より雪がないので(笑、ルート取りは格段に楽だ。しばらくは河原歩きと、傾斜の緩いナメが続く。体験者の方は、河原の足運びも慎重にされていて、遡行ペースはややゆっくり目である。

小さなスラブ滝を登る
小さなスラブ滝の水流際を登る

入渓から30分強で、スダレ状の7m滝となる。水流左側をザイルを引いて登り、後続を確保する。体験者もさほど苦労せずに上がってきたように感じたため、以降登れる滝は巻かずに登る方針とした。

7mスダレ状滝は後続をザイルで確保する
7mスダレ状滝でセカンド登攀準備中

その先は3~5m程度の滝が続く。釜が深い滝もあり、釜をへつって越える場面も。
スダレ状7m滝から約45分で水流が何となく2つに分かれた8m滝が懸かる。左を登る記録もあるようだが、今日は水量多めで水を被りそうなので、前回と同じく右から越えることにした。ここも、ザイルを出して登攀。途中、灌木でランニングが取れるので安心だ。

何となく2条の8m滝
左の水流沿いは水を被りそうなので、右から越える
8m滝登攀中
右壁を灌木沿いに登り、中間バンドをトラバースの後直上する

その先も引き続きナメや3~5mのスラブ滝が続ききれいなところだ。

ナメ滝の続く区間
連続するナメの小滝を快適に越えていく
青空も覗きいい感じだったが...
この辺りでは時おり青空も覗いて、気持ちのいい遡行ができたのだが…

Co1680で右へ水量比3:1の枝沢を分け、傾斜の緩い3段7mを右、捻じれた2mを左から越えると、少し傾斜の立った8m3段の滝。水流左の笹薮とのコンタクトラインをザイルを引いて登る。途中、ホールドの細かい一歩があり、思案して左手の笹を束ねて中間支点とするが、気休め程度。この滝は、体験者は少し苦労していたようなので、特に上部は巻いてしまった方がよかったかもしれない。

8m3段の滝の登攀
8m3段の滝は左から越えるが、上部で少しホールドの細かい1歩がある

さらに、段々のナメやゆるい滑滝が続き、この前後は小淵沢の白眉と言える区間だ。15分ほど歩くとやや立った6mのスラブ滝が懸かる。見た目つるっとしているが、近づくと右端がホールド豊富で簡単に登れる。体験者には、念のためザイルを出す。

6mスラブ滝は、念のため後続をザイルで確保
水流右は、比較的安定したスタンスがあり快適に登れる

6mスラブ滝を越えた先で、昼も過ぎたので大休止とした。休憩後、しばらく平凡な沢筋を辿り、最後に2条に落ちる10m瀑となる。ここは、定石通り左岸のしっかりとした巻き道から越える。この滝を越えると、そこからは傾斜が殆どなくなり河原の続く渓相になる。
途中で、雨が本降り…というより土砂降りになってきた。午前中は青空も広がる天気だったのに、やはり天候が不安定だ。雨の中Co1800付近まで河原を辿り、水流のある枝沢が左から合わさるところで、その枝沢へと進む。倒木が結構うるさいが、乗り越えたりくぐったりしながら進むと、背丈ほどのササヤブ漕ぎとなる。あまり右方向へ行くと余計にササヤブを漕ぐことになるので、コンパスを見てほぼ北方向へ進み、15分ほどで登山道に飛び出した。タイミングの悪いことに、雨は枝沢に入る頃からヤブ漕ぎ中が最盛期だったようで、登山道につく頃には落ち着いていた。
体験者はササヤブ漕ぎも本格的には初めてとのことで、雨の降る中のヤブ漕ぎということもあり、今日は少し苦戦したようだ。

小淵沢田代

詰め上げた地点からは、登山道を左に数分で小淵沢田代に出る。せっかくなので少し田代に寄ってみた。すでに青空も覗くような空模様だが、低い雲もかなり残っており、田代周辺は視界があるが遠方の山々は雲の向こうで眺めはイマイチ。雨が降ったばかりなので、木道の水没具合もいつもより激しいような気もする。(が、いつもこんなもんかと言う気もする。)

秋の始まる気配、誰もいない小淵沢田代
小淵沢田代には、そろそろ秋の気配が漂っていた。そして、今日は誰とも会わずに遡行を終える

もう9月に入っており、お花もあまりたくさんの種類は残っていなかった。眺めもさして得られないので、池塘のあるところで引き返す。登山道を戻り、入渓点の橋のところに降りる登山道を右に分けてしばらく歩くと、石垣のような台座に乗った電源開発碑のある広々とした笹原に出る。上空には送電線が横切り、巡視路が十字に交わっている。

電源開発碑から福島県側の風景
電源開発碑から数年前に辿った福島県側を望む

送電線巡視路を下山

そのまま登山道を直進すると鬼怒沼を越えて、物見山から大清水、あるいは奥鬼怒温泉郷を抜けて女夫淵温泉に出ることができるが、今回は送電線の巡視路を奥鬼怒スーパー林道まで降る計画である。昨年10月の計画も当初は送電線巡視路を下山する予定だったのだが、降雪のために様子の分からない巡視路ではなく登山道を下山したため、群馬県側の送電線巡視路を辿るのは今回が初めてだ。個人的には楽しみなのだが、計画に付き合わされるおふたりには少々申し訳なくもある。

以前に、今回辿るのとは反対方向の檜枝岐村方面へ黒溶沢右俣まで巡視路を辿ったことがある。その際は、歩きやすい道が続いていた記憶があり、その続編として片品村側の踏破を計画に組み入れた次第である。
登山道を右折して、踏み跡に沿って歩みを進めるが、踏み跡は明瞭だ。送電線に沿って笹原の切り開きをずんずん進む。次の鉄塔のある所から地形図では急傾斜の地形となっているが、そこは左の方へ回り込みながら樹林の中を下るように道がついていた。急傾斜の箇所には金属製の階段(はしご?)が設置されており、安全に通過できる。

送電線に沿って続く巡視路
送電線の切り開きに沿って巡視路が延びている
急傾斜の地点に設置された階段
降り始めてすぐの急傾斜地点には階段が設置されており、楽に降ることができた

急傾斜地を過ぎると、再び送電線の切り開きを辿るようになる。踏み跡は基本的に送電線に沿っているが、時々複線になっていたりする。樹林の中で沢を横切る箇所も何か所かあるが、それぞれ小淵沢の左岸支流で、思いのほか水量の多い沢もあった。

沢を横切る
思いのほか水量の多い小淵沢左岸枝沢を横断する

電源開発碑から1時間ほど降って、130と札のついた鉄塔付近がちょうど中間点辺りなので、鉄塔の基部で小休止。地形図には付近に湿原マークがあり、鉄塔から降る方向の巡視路には木道が敷かれていた。

休憩した130号鉄塔から続く道
休憩した130号鉄塔から、その先の131号鉄塔へは少し登り返しがある

木道をしばらく辿り、少し登り返して次の鉄塔からは沢の源頭を回り込むように次の鉄塔に進む。そこから今度は尾根を外れて、沢の方へ降りると沢沿いのトラバース道となる。トラバース道が尾根の末端に乗るところに、片品川右岸最後の鉄塔が立っており、対岸の鉄塔へ送電線が優美なカーブを描いて伸びている。そして、最後の鉄塔から尾根の末端を20分ほど降ると、奥鬼怒スーパー林道へと飛び出す。先週、東岐沢を降りてきた時に確認しておいたとおり、小淵沢橋の左岸側のたもとである。

美しいカーブを描く送電線
片品川を渡る送電線が、美しいカテナリー曲線を描いている

まとめ

今回は、体験山行という位置づけでもあったのだが、メジャーな沢に多少のオリジナリティを加味したコース設定をした。前回辿れなかった送電線巡視路を歩き、その状況を知ることができたので、個人的には有意義であったが、体験者はどう感じたのだろうか。

沢登りは、「渓」というフィールドを中心に、自由に自然の中で活動することを目的とする、多面的で懐の深い営みである。故に、さまざまなアプローチができて、人によりその志向はかなり異なる。山行エリア、ルート選択、季節、日程などなど…無限のバリエーションからどう計画を組み立てるのかは、実際の山行に劣らぬ楽しみでもあり、実際にその計画を実施して得られた経験は、例え目的の沢が大ハズレのスカ沢であっても、充実感・達成感に溢れたものになり(ちょっと盛ってるか・笑)、次の山行に向けたエネルギーにもなる。
山岳会に在籍することの良さは、恐らくそうした様々な志向を持つメンバーで多様な活動ができることにもあるのかななどと考えたりする。自分だったら絶対に計画しないような山行に参加することもできるし、逆に、自分志向の沢に同行してもらったメンバーから共感の言葉が得られて、少し嬉しい思いをしたりすることもある。
あと何年、こんなことを続けられるのかはわからないけれど、できる限り今の仲間を大切に沢登りを続けていきたいと…と、書いているうちに、何だか話が変な方向に逸れてしまったけれど、そんな風に思うのでありました。

遡行図(20220904_中ノ岐沢小淵沢)

メンバー:古巻(L) 坂部 体験者1名
山域:尾瀬
山行形態:沢登り
コースタイム:
大清水駐車場(7:30)-林道橋(8:48/9:10)-7mスダレ状滝上(10:00)-Co1660付近8m滝上(11:08)-8m3段滝上(11:53)-Co1750付近河原(12:17/33)-登山道(13:30)-只見幹線竣工記念碑(14:17)-130号鉄塔下(15:10/20)-奥鬼怒スーパー林道(16:35/40)-大清水駐車場(17:20)
地形図:三平峠・燧ヶ岳
報告者:古巻

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