片品川中ノ岐沢北岐沢

(天候)7月2日:晴

遡行図作成のポイントを確認したい

春の集中山行の後、畑さんから「遡行図の書き方のポイントがまだよくわからないんです」という話を聞き、それならレクチャー山行を計画しましょうということになった。せっかくなので、ゆっくりルートの泊まり山行にして、沢の幕営の基本的な技術も伝えられる機会にしようと、片品川源流部の遡下降を計画した。

ところが、梅雨時期のために初日の予報が思わしくない。実施数日前の予報では土曜日の午後から天候が回復してくる見通しだったので、夕方の焚き火や幕営にさほどの支障はないだろうと思っていたところ、週末が近づくほどに土曜の予報が悪化してきた。やむ無く、幕営関係はすっぱりと諦めて、日帰りの遡行図トレに的を絞って実施することにした。
日帰りなので、計画を少し切り詰め、当初計画のエスケープルートに設定していたCo1650右岸支流を登山道まで詰め上げて、送電線巡視路経由で大清水へ下山するルートに変更した。

奥鬼怒スーパー林道を歩き、北岐沢へ入渓する

切り詰めたとは言え、全体の行動時間は10時間を越えそうである。少し早めに大清水の駐車場を出発し、奥鬼怒スーパー林道を入渓点まで辿るが、その林道歩きも長い。大清水から1時間20分ほど歩いてようやく林道が大きく右へカーブする入渓地点へ到達。前方の笹藪を少し漕ぐと小さな流れに出るが、それを下降して北岐沢本流へ降り立った。出合は5mほどの段々滝になっていたが、10数年前に同様にアプローチした際の記憶がなくちょっと新鮮・笑。
さて本流の水量はと見てみると、水中の岩の様子から5~10cm程度増水していることが推測されたが、遡行に支障のあるほどの増水ではないと判断し、早速遡行を開始する。

下降した小沢は滝で本流と合流する
入渓のために下降した小沢は、段々の滝を懸けて本流と出合う

下降した枝沢の出合からいくつか小滝を越えていくと、大きな釜へどうどうと水を落とす幅広6mの滝が見えてくる。増水しているのでなかなかの迫力だ。直登は到底無理なので巻いて越えることにするが、左は岸壁が張り出しているため、巻くなら右からだろうと右の斜面に近づくと明瞭な巻き道が踏まれており、労なく巻くことができた。入渓者がそれなりに多い渓ならではで、巻き道も明瞭だ。

最初に出会う6m滝
遡行開始後最初に出会う滝は左岸を高巻く

続いて2条に水を落とす4x7mの斜瀑。ここは水流右手の岩に取りついて、水流脇を登って滝上に出た。
シーズン始めなのでぬめるのではと思ったが、さほどでもなくフリクションに不安はなかった。

2条の滝の登攀
2条の滝は水流右から快適に越える

2条の滝を越えると、不思議な造形の滝が現れるが、そもそも滝と言っていいのかちょっと迷うような形だ。アボカド型の岩が横倒しに二つ並んだ間から水が落ちており、さらに並んだ岩の右端にも落ち込みがある。釜が深いので右の水流を越えるのは面倒そうだが、岩の左側のガレた斜面を登れば、岩の上を越えて簡単に通過できる。

不思議な形の岩の間から落ちる滝
不思議な形の岩の間から水流が落ちているが、滝と言っていいものかどうか…

次いで現れる石門から流れ出る前衛3mを従えた7m瀑は、大水量で到底直登は覚束ない。左に広がる岩場の左端から落ちている支流の滝を登って岩棚に上がり、支流を辿って岩場を越えた先で沢に戻る。

前衛滝を従えた7m石門滝
前衛の滝を従えた石門状の7m滝も水量が多く迫力がある
3m、7mの連瀑は左壁の支流から越える
石門滝はこの右岸支流の滝から岩棚へ上がって高巻く

戻ると目の前に堂々たる10m4段の滝。水量が少なければ滝本体も登れそうだが、なかなかの水量で流れ落ちている。
そこで畑さんに「じゃあ、ここはシャワークライムで越えましょう・笑」と声をかけて滝本体へ近づき、岩場の右端を流れ落ちている支流の滝をプチシャワーで登って、滝本体の2段目落ち口から水のない右壁を直上して滝の上端に到達した。…と言うことで、事前通告通り「シャワークライム」で突破である。

10m4段の滝落ち口から
10m4段の滝は、左岸枝沢を上がり、途中から滝本体の右壁を登って越える

10m滝を越えると、沢が少し開けてしばらく穏やかな流れが続く。やがて右岸に高い岸壁を認めると、沢は右に大きくカーブして先の方から水煙が漂ってきた。北岐沢最大の15m滝である。水量が多く大迫力だ。畑さんも「すごいっ!」と興奮気味。
せっかくなので、ゴルジュ入口の右岸をへつって滝の正面へ進み全体を観察する。ただ、細かい水しぶきが絶え間なく降り注ぐため長居することができずすぐに撤退。畑さんと交代して、しばし滝の鑑賞タイム。
ここへは、右岸から支流が滝で出合うのだが、ゴルジュの入口からは岸壁に阻まれて確認することができない。

北岐沢最大の15m滝
15m滝は水量も多く迫力ある姿である

巻き道は、左岸の尾根を乗っ越すようについていたと記憶していたので、滝の鑑賞を終えてから巻き始めるが、最初変な岩場を登り始めてしまい、これは違う違うと戻って、さらに右手の少し傾斜の緩いところへ行くと、な~んだ、明瞭な巻き道がついていて、労なく安全に巻けるのであった。巻いている途中で右岸支流の出合の様子も観察できて、改めてその迫力と自然の造形の妙を感じた。

15m滝の高巻き道からの支流の滝
15m滝の高巻き中、右岸支流の2段の滝が見える

さて、明瞭な巻き道に導かれて大滝を越えた河原に降り立つと、そこから先は傾斜が無くなり穏やかな渓相となる。ナメの区間も増えて、青空の下での遡行は快適の一言。両岸から合わさる支流は滝で出合うものも多く、それぞれ目を楽しませてくれる。
ただ、小さな落ち込みでも大きな釜を抱えているものが多く、越えるのにはへつってみたり巻いてみたりとすんなりとは通過できない。まあ、それも楽しいのだけれど。

大滝から上流はナメが優勢となる
大滝を越えると、ナメ優勢の穏やかな流れが続く
5m階段状の滝は右から越える
階段状の5m滝は、右側から越える

小一時間も楽しく遡行を続けると、左から支流が合流してきた。Co1650の分岐だが、左の支流は明るいナメで合流するのに対して、右の本流は少し暗い樹林帯から流れてきており、本流を遡行する際にうっかり左へ入ってしまいそうな景観だ。
今日はこの支流を登山道まで詰め上げる予定なので、明るい左へと進むのだが、陽も当たって気持ちがいいので一息入れることにした。

本流は樹林帯から流れてくる
本流は樹林帯から流れてきており、少し暗く見える

Co1650で出合う支流を遡行するが…

上空を見上げると、雲一つない青空が広がり、周囲の明るいナメ床に透明な水が流れる様子は本当に心洗われる光景だ。
「泊りで来たかったですね~」とそんなことを畑さんと話したような…。

Co1650右岸支流出合い
Co1650右岸支流は明るいナメで出合う。出合の明るい川原で小休止

休憩後は赤安山東方の鞍部を目指して支流の遡行を続ける。出合からしばらくは明るいナメの区間が続くが、ほどなく樹林が左右から迫ってきた。その先で再度明るくなったと思ったら、左岸の斜面が大きく崩れて大岩が沢を埋めている。崩壊斜面の真下を避けて、右岸の樹林を歩いて崩壊地をやり過ごすと、巨岩の積み重なった暗い渓相となる。

左岸の大崩壊地
左岸の斜面が大きく崩壊していた

巨岩を越えていく中で、左手に沢を分けたような地形を確認したのだが、流れが幾筋にもなっていて分岐が明瞭ではなく、左手の流れも水量は極少な感じであったため、ひとまず先へ進んでみたが、どうもその辺りがCo1700付近の二俣だったようである。地形図では、水線が明瞭に分かれているのだが、現地の様子ははなはだ不明瞭である。

Co1700分岐から標高差で100mほどは等高線の間隔がやや狭くなるが、沢筋も小さな滝が続く渓相となり、その滝も深い釜を持っていたりと意外と変化がある。ただ、藪が被っていたり、倒木が多かったりとやや荒れた印象なのは否めない。
支流としては大きめの規模ではあるが、概ねこんな感じのところが続いて源頭に達するのだろうと想像した。この辺りで時間が昼近くになったので、少し開けた河原に出たところで昼休憩とした。

深い釜を持つ小滝
少し暗く荒れた渓相で、時折深い釜を持った小滝も現れる

休憩後、小滝をいくつか越えると上空が開けて明るくなってきた。そろそろ傾斜が緩む頃だと思っていたところだが、そこから渓相が一変した。それまでの荒れた感じの少し暗い流れから、一転明るい陽差しの溢れる渓になったのである。樹林がやや後退し、流れの傍らに草付きの斜面なども現れる。流れは幾筋もに分かれて、多段のナメ滝となって落ちている。5mほど上には、さらに上の斜面から落ちてきたのか、巨岩が沢の右半分にふたをするように乗っており、その下にも水が流れている。
畑さんから「ここはどういう風に遡行図に書けばいいんですか?」と質問されるが、それはこっちが聞きたい、というような様子である。「う~ん、多段多条の滝…とかかかな~。あとは個人のセンスだ!」と極めて無責任な回答をしつつ周囲を観察する。

明るい渓相に一変
突如明るく開けた渓相に変化した
多段多条の滝が始まる
階段状の滝が幾筋にも分かれて落ちている
沢を塞ぐ大岩
上の斜面から落ちてきたのか、大岩が沢に蓋をするように鎮座している

少々複雑な”多段多条の滝”を10mくらい上がると、少しまとまったかたちのすだれ状の斜瀑が懸かっている。
空の青、森の緑と少し黄色がかった明るい色のナメと透き通った水、それぞれが織り成す情景は、沢登りの醍醐味ここに極まれりという姿だと言ったら言い過ぎだろうか。いやあ、これは思わぬお宝を掘り出したなあ…。

大岩の上の端正なかたちのナメ滝
大岩の上には端正なかたちのナメ滝が懸かっている

すだれ状斜瀑を上がって行くと、さらに上に続くナメ滝が見えてきた。かなり上の方にも白い水の煌めきが見えて滝が続いていることが分かる。一体どこまで滝が続いているのだろうか。
「えーっ。すごいすごい」と思わず声が出る。

かなり上まで続くナメ滝
かなり上の方までナメ滝が続いていて、見上げても滝の終わりがわからない

途中途中の傾斜の緩んだテラス状のところで区切って数えると5~6本の滝が続く連瀑帯とも言えるし、全体を一つの滝とすることもできそうだし、いずれにしても全体の高さは30m以上はあるだろうという見事なナメ滝群だったのである。
全体の中ほどで右岸から支流を合わせるが、そこは地形図上のCo1800付近の分岐だろう。

最上段下のテラスにて
最上段下のテラスにて

傾斜もほどほどで階段状の滝が続くので登りに困難はなく、ふたりで「きれいだ」「すごい」「テンション上がる」などとはしゃぎながら滝場の終了点まで登りついた。見下ろしても一番下は伺えない。何も知らずに沢を下降してきて、もしこの場所に立ったらちょっとびっくりしそうだ。こんな支流に思ってもみなかった滝があることが分かり、この支流の評価は爆上がりである。いや「瀑」上がりか・笑。
登っている時はこの滝がいつまでもいつまでも続いてほしいと思ったが、さすがにそういうわけもなく、Co1810付近で滝場も終わり地味な渓相に戻る。

ナメ滝群落ち口からの眺め
登り切って振り返る。遠くは上州武尊だろうか

落ち口から直ぐ上流で水量比1対1の二俣(Co1830)となるが、ここは左へ進む。さらに15分ほどで水量比3対1の分岐(Co1870)。ここは水量の多い左へ進み、さらにすぐ先の分岐(Co1880)は、水量は少ないが、最短で登山道へ到達できるはずの右へ進む。

源頭部は意外と明るい針葉樹の森を、少ないながら水が涸れずに続いている。周囲はなだらかな起伏の針葉樹林帯となっておりヤブもないため、林床のフワフワの苔を踏みながら気持ちよく高度を上げて行く。

源頭部は針葉樹林の森を流れている
源頭部は明るい針葉樹林の中を流れている

途中ではっきりとしたふみ跡が横切るが、まだ稜線まではだいぶあるし登山道にしては細いので、先に進むと稜線直下で今度は少し幅の広いしっかりしたふみ跡にぶつかる。
恐らくここが登山道であろうと考え、一旦荷物を降ろして休憩とする。休憩中に稜線までひと登りして、まさにそこが登山道であることを確認した。
後は、道を歩けば出発点に戻れることが確実になったので、少し休憩の後登山道を西へ進む。

登山道へ詰め上げた
明るい樹林の中を歩いて登山道まで詰め上げた

登山道と送電線巡視路

かつて、山歩きを始めた20代の頃、尾瀬沼から奥鬼怒まで通して歩いてみたいと思っていたが、結局実現することもなく現在に至っている。
とは言え、沢登りと組み合わせてその一部をトレースする山行を何度か行っており、歩いていない区間は鬼怒沼山の北側の一部と赤安清水-黒岩清水間だけである。今回は、詰め上げた赤安山東の鞍部から只見幹線竣工記念碑までの稜線を歩くが、鞍部から赤安清水までの未踏区間を含むので、未踏区間はさらに減ってしまう。
歩き出してから赤安山への登りになるが、そこ以外にもアップダウンが結構ある。時折、会津駒ケ岳方面や日光方面の展望が開ける場所もあるが、基本的には針葉樹林の中を辿る登山道で少し単調な道のりだ。そのため、実際の距離以上に長くも感じる。袴腰山の北面の巻き道を登り始める頃から、早く只見幹線の通る草原に着かないものかと思いながら歩いていた。

時折眺めが開ける
基本的に樹林の中の登山道だが、時折眺めが開ける

沢を詰め上げた地点から約2時間。やっと目の前が開けて広々とした草原に飛び出す。まださらに2時間くらい歩かなくてはならないが、ようやく終わりが見えてきてほっとする。

送電線の通る草原に飛び出す
やっと送電線の通る草原に飛び出した

ここからの送電線巡視路は2度目だが、前回は事情があって少し時間がかかったので、今回普通に降るとどれくらいで降れるのかを確かめたいという思いもあった。結果1時間半ほどで小淵沢橋の袂に着いたので、登山道を降るのと大きく変わらないことが確認できた。小淵沢の橋からは、疲れた足にムチ打って大清水の駐車場までの道を急いだ。

送電線が片品川を越えて続いている
右岸最後の鉄塔を過ぎると、スーパー林道まではジグザグの急降下だ

山行を振り返って

天候のためとは言え、泊まりの計画が日帰りの計画になり、当初設定したテーマのいくつかは諦めなくてはならなかったが、畑さんは、遡行図の書き方のポイントを少し会得できたようで、最大の目的を達成できたのはよかったと思う。
遡行では、何といっても支流の大滝の存在を確認できたことが最大の収穫だろう。天候にも恵まれ、遥かな高みから続く連続したナメ滝を登るのは気分爽快そのものであった。
また、登山道の未踏区間の踏査や送電線巡視路の再調査も果たせたので、個人的な成果もあった。

畑さんは、いずれ北岐沢を小松湿原まで遡行することがあるだろうか。今回は長丁場ではあったが、全行程のうちで遡行の占める割合は少なかった。ただ、北岐沢自体には好印象を持っていただいたようではあるので、いずれ本流を最後まで詰めた時にその印象はどう変わるのだろうか。山行を振り返って、ふとそんなことも思った。


メンバー:古巻(L) 畑
山域:帝釈山脈
山行形態:沢登り
コースタイム:
大清水駐車場(6:30)-林道カーブ地点(7:45/52)-北岐沢入渓(7:58)-15m大滝上(9:58)-Co1650分岐(11:00/10)-Co1830分岐(12:44)-登山道(13:23/30)-赤安清水(14:25)-只見幹線竣工記念碑(15:12/18)-奥鬼怒スーパー林道(16:49)-大清水駐車場(17:42)
地形図:三平峠・川俣温泉・帝釈山・燧ヶ岳
報告者:古巻

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