葛野川深入沢

天候:晴

朝、深城ダム管理事務所の駐車場に伊藤号を停めて三人で身支度をしていると、地元の方から「沢登りか?」と話しかけられた。手に、何か道具を持っているので、最初はゲートボールか何かの試合でもあるのかと思ったのだが、どうも山仕事の道具のようだ。枝打ちなのか山菜取りなのか、数人が集まっていて、何やら作業に向かう気配だった。
沢登りかと話しかけた方が、続けて「奥釜入か?」と…。沢登りの世界では「深入沢」で通っている沢は、地元では「奥釜入」と呼んでいるらしい。

かつて、いわゆる「釜入沢」と「深入沢」の中間尾根の標高800m付近には、「釜入」という集落があり、尾根の左右にある渓を「入釜入」「奥釜入」と称していたようである。手元にある、古い登山地図でも、「深入沢」は「上ノ釜入沢」、「釜入沢」は「下ノ釜入沢」と書かれている。
深入沢に最初に入ったのは、2010年の5月のこと。その直後に出版された『東京起点沢登りルート120』(宗像兵一編著、山と渓谷社、2010年6月)で深入沢が紹介されたため、この10年余りでずいぶん人が入るようになったと思う。ガイドにも記載されている通り、国道139号に架かる「深入橋」には「深入沢」と書かれている。「深入沢」とは、どこから出てきた名前なのか、ちょっと気になる。し、個人的には地元の呼称で呼んでみたい感じも…。

さて、閑話休題。身支度を終えて、いざ入渓。まずは、深入橋を渡り、上流側の袂にある鉄パイプ製の階段を下る。…が、上の2段ほどが無くなっていて、下り出しにちょっと勇気が必要だ。

出だしの階段
上部が外れた出だしの階段。最初の一歩がちょっと怖い。

階段を下りて、右手へ回り込むように擁壁沿いに足場が組んであり、そこを進んで、落ち葉の詰まったルンゼを下る。以前は、固定ロープがあったが、今は跡形もない。ただ、落ち葉がいい具合に詰まっていて、下降にさほどの困難はない。

落ち葉が詰まった窪を急降下
落ち葉が詰まった窪を急降下

駐車場から15分ほどで、深入橋の真下の沢床へ到達。10年前に遡行した時の記憶は、薄暗い谷底を流れる黒っぽい沢のイメージなのだが、今日はもう少し明るい印象だ。帰宅後に、当時の記録を繙いてみたら、10年前は時々小雨の降る中を遡行していたから、好天の今日とは印象が違って当たり前か。新緑も深まってきており、渓相は黒っぽいイメージのとおりだが、沢から受ける印象は、ずいぶんと明るい。

入渓直後、まず登れない7m滝が登場。
左のルンゼ状の枝沢に入り、3m滝の手前の斜面を登って本流との境の小尾根を乗っ越すように本流へ戻る。下りの斜面は急だが、ロープを使わずに下降可能。振り返ると、斜面には崩れた石垣が確認できた。

黒光りする7m滝
黒光りする7m滝は、右岸ルンゼ状枝沢から高巻く

7m滝の上流は、3~5mのナメ滝がいくつか懸かる。深い瀞状は、思い思いにへつって越える。20分ほどで、次の大きな滝。10mの直瀑だ。左岸を少し大きめに巻いたので、懸垂下降で沢に戻る。足慣らし、沢トレでもあるので、それもいい練習になった。

序盤の10m滝
序盤の10m滝、ルート偵察中

右岸に崩壊地を見ながら先に進むと、小滝が連続する。越えた先に倒木が多量に横たわっているが、左岸のスラブ斜面から落ちてきたもののようだ。大きな岩屑も溜まっていて剣呑。足早に通過する。

中間部は程よい滝が続き、へつり気味に越えたり、水流を快適に登ったり、小さく巻いたり楽しく登れる区間だ。
釜に大きな倒木が逆さに突き刺さった印象的な滝などもあった。

釜をへつって越える
釜をへつり、水流右を越える
太い倒木のある滝
太い倒木が釜に突き刺さった印象的な滝
水流沿いを快適に登る
水流沿いを快適に登る
左岸を小さく巻き気味に
右斜面を小さく巻き気味に越える
小釜を水平にトラバース
小釜を水平にトラバースして越える

途中Co800右岸枝沢の出合いで昼食休憩。昼食後も快調に遡行を続ける。Co870二俣手前には、8m2段の滝が懸かる。下段は末広がりのナメ滝で、傾斜も緩く登るのに困難はなさそう。ただ、ヒョングった上段は考えどころ。右壁の木の根がしっかりとした手掛かりになりそうで、登れば登れるようにも思うが、リーダー、今日は高巻きを選択。
右岸から安全ルートを高巻いて落ち口に降り立った。

ヒョングった上段をどう越えるか⁈
登れそうだが、安全優先で右岸より高巻く

滝を越えると、しばらくでCo870の二俣となる。
計画はオーソドックスな右俣遡行だ。対して左俣は、出合いに3mの小滝をかけ、その奥に捻じれたような水流の12mの滝を懸けている。ここを左に入る記録は少なそう。たぶん、下山が長くなるからだろう。とはいえ、ねじれの滝の上もちょっと気になる。今度、歩いてみたいと思わせる、印象的な出合いだ。

左俣出合いの小滝と捻じれた水流の12m滝
左俣には出合いの前衛滝に続いて、捻じれた水流の12m滝が懸かる

件の左の滝はやや暗い感じだが、右は明るい12mナメ滝だ。水流を快適に登れそうだが、上部はやや手が少ない感じだ。星野さんはザイルを結んで安全優先。古巻は、星野さんの後からフリーで時間優先の登攀となった。上部は、滑る水流沿いより、乾いた右壁を登ると少し安心。

右俣の滝はザイルが出た
右俣の滝は、上部にホールドが乏しいので、ザイルが出た

二俣からも、しばらくナメ小滝、ナメ滝が続く。30分ほど遡ったところに懸かる6m滝は、少し立っているので、続く小滝とともに右から高巻く。

急斜面のトラバース
急斜面を慎重にトラバースする

前半に比べ後半は少し傾斜も増し、滝の落差も大きくなってくるが、沢が開けてくるので明るく感じる。
Co1000の分岐から小滝を二つ三つ越すと、上段がハングした6m3段の滝のところで右に水流のない窪を分ける。Co1020の分岐だ。計画では、右の窪を詰めて、釜入沢との中間尾根に上がる予定だったが、枝沢は水も無く枯葉が詰まった窪なので、左岸の小尾根を詰めることになった。少々急斜面だが、中間尾根の1150m付近を目指して登る。

詰めは急斜面を喘ぎ登る
詰めの急斜面を喘ぎ登り、間もなく仕事道に合流か…

途中、獣道なのか作業道なのか、踏み跡が縦横に錯綜している。登ること45分で中間尾根の仕事道に合流。そこからは、踏み跡明瞭なれど、いやな松の落ち葉が敷き詰められた急降下の尾根を下降。星野さんは用意周到にもチェーンアイゼンを装着して、快適に降りていくが、フェルトソールのみの二人は慎重に下降。10年前も急下降だった記憶があるが、こんなに松葉があったかな…。まあ、今より10歳若いわけだし、普通に下れたのだろう。1時間ほど下ると、見覚えのある擁壁上へ到達。釜入沢に架かる橋を見下ろす眺望もなかなかいい。深城ダムの堤体もよく見える。

釜入沢に架かる橋を見下ろす
釜入沢に架かる橋を見下ろす

そこから下る階段は、土が流れ込んでおり少々気を遣うが、無事に国道へ降り立ち駐車場へ戻った。

本当ならば、せっかくのGWなので、遠出をして泊りの沢登り、あるいは尾瀬や会津で春スキーを楽しみたかったが、そうもいかずの日帰り沢登りだった。
とは言え、お天気にも恵まれ、新緑の深まる季節の沢登り。やはり沢はいいなあと実感。
そろそろ雪国の前衛の山々も歩きたいのだけれど、気兼ねなく歩けるようになるのは何時のことやら…。その日のために、勘が鈍らないよう、体力維持も含めて可能な活動を続けていきたいと思う、今日この頃であった…。

遡行図(葛野川深入沢)

遡行図(葛野川深入沢)


メンバー:伊藤(L) 星野 古巻
山域:大菩薩連嶺
山行形態:沢登り
コースタイム:
深城ダム管理事務所P(8:50)-入渓点(9:05)-10m滝上(10:20)-Co740付近分岐(11:35)-Co800付近分岐(12:15/45)-Co870二俣(13:18)-Co1020分岐(14:45)-中間尾根(15:30)-国道(16:30)-深城ダム管理事務所P(16:33)
地形図:七保
報告者:古巻

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