伊南川タケナグラ沢

(天候)10月14日:晴

伊南川・檜枝岐川・実川~本流の河川名称とタケナグラ沢について

伊南川は、JR只見線只見駅の近くで只見川に合流する只見川の一大支流である。舘岩川の出合より上流は檜枝岐川と名前を変える…という情報もあるが、地形図では檜枝岐村キリンテのあたりまで伊南川と記載があるし、現場の河川名称の看板にも「伊南川」と書いてある。個人的には、檜枝岐村に入ったら檜枝岐川、七入橋(モーカケ沢出合)から上流は実川と呼ぶのかと思っていたが、どうもそうでもないらしい。ただ、どれが正解かは国土交通省や国土地理院のホームページでも正確な情報が見つからない。(見る資料によって、微妙に異なる情報に突き当たる)
で、今回遡行したタケナグラ沢だが、舘岩川出合より上流で檜枝岐村との境界線よりはちょっとだけ下流の”伊南川”左岸、黒檜沢と下大戸沢に挟まれて三岩岳より南東に延びる尾根の途中へ詰め上げる小渓である。

何でそんな細かいところをわざわざ計画したのかと言うと、そもそもの記憶は曖昧なのだが、伊南川・檜枝岐川の周辺の計画を考える際、他会の記録に目を通していて印象に残っていたのだと思う。その後、ぼんやりと遡行計画を温めていたが、シーズン最盛期に行くにはちょっと中途半端な計画になりそうで見送っているうちに数年が過ぎてしまった。

その記録では、短時間で遡行を終え、黒檜沢の右岸支流へ乗っ越して戻ってきているので、日の短くなったこの時期の山行としてちょうどよいのではないかと考えて今回の計画実施に至ったという訳だ。当初は、黒檜沢に行こうかという案もあったのだが、下部のゴルジュが水に浸からないと突破困難といった記録も散見され、この時期に水垢離は避けたいぼくが敬遠して隣の沢の計画を立てた。ちょっと黒檜沢にも触るので、下見的な風味も漂う。

入渓は、小豆温泉花木の宿前の錦秋橋から

当日7時30分を少し回った時間に小豆温泉スノーシェッド脇の駐車場へ車を停める。
支度をしてスノーシェッドを抜け、窓明の湯前を通過。小豆温泉の花木の宿の少し先で伊南川を渡る錦秋橋付近から伊南川に降りるのだが、橋の下付近はちょうどゴルジュになっていてどこから降りる?と少しウロウロする。結局橋を越えた左岸斜面をちょっと無理やり気味に降りて出合に到達。

錦秋橋から見下ろすタケナグラ沢出合付近
錦秋橋からタケナグラ沢の出合付近を見下ろす

少し荒れた感じの出合ではあるが、すぐに滝が懸かっている。滝は花崗岩系の岩で構成されフリクションは効きそうだ。水に浸かったり水を被ったりはちょっと避けたい季節だが、朝は冷え込んだものの、天気は良く行動中は寒いと感じるほどでもない。

タケナグラ沢出合の様子
出合は少々荒れた様子だ

最初の連瀑は特に困難もなく登って行ける。途中、雪崩防護のためのフェンスが3か所に渡って張り渡してあり、ちょっと不思議な情景である。
県のホームページなどを見ると、タケナグラ沢は雪崩の巣のようになっており、過去に大規模な雪崩の被害が何度か発生しているようだ。「タケナグラ沢からの大規模な雪崩が伊南川をジャンプし国道を約200mにわたって埋没した」とか「小豆温泉の駐車場が雪に埋まって駐車車両が被害に遭った」とか、なかなか壮絶な記述も散見された。

雪崩防止ネット
何か所かで雪崩防止ネットが沢に張り渡してある
小滝の連瀑を登る
最初は小滝が続く連瀑帯を登って高度を稼いでいく

出合から小滝が続きぐんぐんと高度を上げて行く。30分ほど登ると、直登の難しそうな7m滝が現れる。ここは直登せず左岸を巻いて越えるが、滝の上部へ小さく巻き水流右の岩を登る。登ってから後を振り返ると、眼下に小さく小豆温泉の駐車場が見える。
大規模に雪崩が起きたら駐車場が埋没するというのも大げさな話ではなさそうである。

見下ろすと遥か下に駐車場が見える
7m滝落ち口から振り返って見下ろすと小豆温泉の駐車場が小さく見えた

そこを越えてもさらに小滝が続く。ここまでは巻いて登った7m滝が最大の落差の滝だったので、こんな感じで滝場が終わるのかなと思っていたところ、出合から1時間強で前方に遠目にも大きな落差の滝が見えてきた。おーこんな大きな滝が…と思い近づきながら越え方を思案。直登はちょっと難しそうな20m級3段の滝だ。

20m3段の大滝
3段になって流れ落ちる20m級の大滝が現れた

左岸は岸壁になっていて高巻きは難儀そう。反対の右岸は、ザレたルンゼ状の斜面を登って、左手の小尾根に上がれそうだ。

大滝右岸のザレた斜面
大滝右岸のザレた斜面から小尾根に取りつけば高巻けそうだ
大滝高巻き中
少し急な斜面を立木を頼りに巻いて行く

足場はあまり安定しないが、灌木や根っ子を頼りにザレを上がり小尾根に取りつく。そこからは尾根上の灌木を繋いで登るが、傾斜はかなり急だ。立木が段々と太くなってくるので安心感は増すが、あまり上がり過ぎないうちに右方向へトラバースしていきたい。高森さんも気にして「そろそろ右へ…」と言うものの、ちょっとトラバースに自信が持てない斜面が続く。何とかトラバースできそうなところで、右へトラバースを開始するも、倒木や石楠花の藪に行く手を阻まれ、登ったり降りたりジグザグにトラバースを続ける。しばらく藪の中をもがきながら進むと、沢の音が近づいてきて、やっと沢床を目視できるところへ到達。上部も小滝が続いているが、この辺りなら降りても大丈夫そう。立木を頼りに何とか沢床へ降り立ったが、この高巻きに1時間弱を要した。

小滝が続いている
沢を見下ろすと小滝が続いていて、降りても問題がなさそうだ

下流を見ると、降り立った場所のすぐ下で滝が落ち込んでおり、「お、落ち口ぴったりだ…」と悦に入ったのだが、それはちょっと早とちりだったことが後ほど判明する。それについては後述するので後ほどのお楽しみに…。

大滝落ち口
巻き終わると落ち口ぴったりに出た…のだけれど

この”タケナグラ大滝”を大高巻きで越えると、標高は1050mのあたり。そこから上流は沢の傾斜も落ちて小滝は続くが困難なところは出てこない。ただ、ボサが被ってきて少々煩い。
途中で、高森さんがナメコの出ている倒木を発見して収穫に励む。その後、大きめのキクラゲも収穫していた。さすがキノコ目を鍛えているだけある。

倒木にナメコ
あっ!ナメコだ
倒木にキクラゲ
少し大きめのキクラゲも発見!

12時少し過ぎ、右から細い水流が入る。高度計を見て、この流れが黒檜沢側へ乗っ越す水流と判断する。Co1260付近である。ここまでろくに休憩もしていなかったので、登る前に腹ごしらえをと昼食休憩とした。

だんだんと沢にボサが被ってくる
大滝より上流はだんだんとボサが被ってくる
上流部は完全なヤブ沢
沢が開けるとヤブは力を増して、一層ヤブ沢化が進む

細い枝沢を詰めて、黒檜沢支流を下降

休憩後細い水流に入ると、すぐにまた高森さんが食べられるキノコを発見し少し収穫。この流れは15分も登ると平らになって来て乗越点となる。周辺はブナの森が広がり、黄葉の始まりかけた様子は心和む光景だ。

乗っ越し点に広がるブナの森
乗っ越し点付近はブナの森が広がり気持ちのいいところであった

コンパスで方向を確認して、鞍部を突っ切りそのまま斜面を降りだすと、左側に窪が見えてきて、さらに少し下ると、右手に小広い平地が見えてきた。
過去の記録にある小湿原だろう。その記録ではミズバショウやメタカラコウが生育していたとあるが、今の時期でも涸れた葉っぱくらいは残っていそうだが見たところミズバショウは全然見当たらない。何らかの要因で全滅してしまったのだろうか。湿原は、だんだんと傾斜が出て沢状になって行く。全体に傾斜は割合と急で、ところどころ小滝も懸かるが、小さく巻くかクライムダウンで降りられる。

下降した沢の源頭部にある小湿原
源頭部の小湿原はヌタ場のような泥沼の様相
下降した枝沢のミニゴルジュ
ミニゴルジュは水線をそのまま下降した

そろそろ本流と出合うと思ったところで、大きめの沢筋と合流。すっかり本流と思い込んだが、その手前の支流だという高森さんの指摘があり、地図を見直すと、なるほど本流の前に1本出合う沢筋がある。本流にしては細いなと思ったんだよ~とか言いながらさらに降ると、右手に大きな薙が現れて、間もなく本流と出合う。

黒檜沢を下降し、途中から登山道で登山口へ戻る

本流は幅広のゴーロだが、岩が大きいのでルートを誤ると行き詰る。左右の台地にはところどころふみ跡があるので、使える所はそこを歩く。

黒檜沢のゴーロ帯
この辺りの黒檜沢は、大岩のゴーロ帯だ

1時間ほど下降を続けると、前方が狭まりゴルジュとなっている。どん詰まりは滝が落ちていて、そのまま下れなさそうなので、左岸の踏み跡から巻き降りることにした。しばらく明瞭な踏み跡を辿ったが、ルンゼに突き当たったあたりで不明瞭になる。沢はゴルジュがまだ続いているようなので、登山道まであと僅かだし登山道まで登ってしまおうと、ルンゼの右岸尾根を登り始めた。地図を見るとルンゼの対岸尾根の方が登山道に出やすそうだったので、途中からルンゼに降りて、ルンゼをガシガシと30分近く登ってようやく登山道に突き当たった。

黒檜沢のゴルジュ
ゴルジュは左岸台地の踏み跡を使って巻こうとしたのだが…
三岩岳登山道の様子
詰め上げた登山道は、思っていた以上にしっかりとした道だった

この登山道は、現在殆ど歩かれていないはずなので、どれほどちゃんとしているか懸念していたのだが、古くからの登山道だけあってかなりしっかりと道型が残っていて歩くのに支障はなかった。黒檜沢の徒渉点まで思ったより時間がかかったが、徒渉点を越えて先を急ぐ。が、高森さんのキノコ目がキノコを見逃さずにところどころで収穫に励んでいる。収穫時間も含めて、登山道に出てから1時間ほどで登山口まで戻ってきた。登山口のすぐ脇の橋が黒檜沢の橋なので、黒檜沢の入渓点の確認やら、二重滝の写真撮影やらを済ませて車に戻る。

黒檜沢徒渉点
黒檜沢徒渉点には石段があるが、右岸の石段にはトラップあり・笑
三岩岳小豆温泉登山口へ降りてきた
三岩岳小豆温泉登山口へ降りてきた。少しスノーシェッドの上を歩く

まとめ、そして”早とちり”の顛末

手早く片づけを済ませて車に乗り込み、乗車1分で窓明の湯に到着。施設は小さいが気持ちのいい温泉でほかほかと温まる。おまけに、入浴後はかき氷のサービス付き。入浴前は、今日は涼しいし別にかき氷は食べなくていいかなと思っていたのだが、現金なもので体が温まるとなんだか食べたくなってきた。水分補給を兼ねてという理屈で「マンゴーを一つください」とお願いしてかき氷を食す。何年かぶりで思わずかき氷を食べた。美味し。

窓明の湯提供無料サービスのかき氷
入浴後に無料サービスのかき氷(マンゴー味)を食す

ちなみに、窓明の湯ホームページの料金表には大人一人450円と記載されているが、加えて入湯税150円が加算されて合計600円を支払う必要があるのでお間違いなく。(その点もよく見るとホームページに記載されています。)
入浴後は、少し車を走らせて舘岩のまだ開いているコンビニで地酒の一升瓶を購入したら、お店のおやじさんがつまみにとポテトチップスを一袋おまけしてくれた。ラッキーである。

ところで、早とちりの顛末だが、帰りの車で福島登高会の記録を見ていた高森さんから、大高巻きをした滝はその上にさらに大きな滝が続いており、全体が50mを越える連瀑帯だったと教えてもらう。
件の記録は、当然事前に目を通していたのだが、凡そのルートと遡行できそうだなという情報だけがインプットされており、仔細に遡行図など見ていなかったので、”高巻いて落ち口ぴったり”は、下から見た三連瀑の最上段落ち口と思い込んでしまったという次第だ。
お粗末ではあるが、よく考えると、1時間近く高巻いているし随分と高くまで登ったのに20mの滝の落ち口っていう訳ないよなあ…。

という訳で、ちょっとオチがついたタケナグラ沢の遡行だったのだが、錦秋というには少し早かったものの、長年懸案のタケナグラ沢を見ることができてまずまず満足の一日となった。巻き過ぎてしまった連瀑帯の上部の様子も気にはなるが、まあ、もう行くことはないんだろうなあ…。ただ、これから出合の前を通るたびに今回の山行を思い出すことだろうことは間違いない。


メンバー:古巻(L) 高森
山域:南会津
山行形態:沢登り
コースタイム:
小豆温泉スノーシェッド駐車場(8:10)-タケナグラ沢入渓(8:40)-大滝上(10:53)-Co1260枝沢出合(12:15/12:35)-黒檜沢Co1110枝沢出合(13:55/14:00)-三岩岳登山道横断点(16:15)-三岩岳小豆温泉登山口(16:40)-小豆温泉スノーシェッド駐車場(16:48)
地形図:檜枝岐・内川
報告者:古巻

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